名古屋簡判 平成14年12月17日 〔保証金(敷金)47万円 返還19万4050円(敷引23万5000円)〕
■ 事案の概要 (原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成6年8月、賃貸人Yと期間2年、月額賃料11万240円(共益費、駐車場を含む) で賃貸借契約を締結し、保証金(敷金)として47万円を差し入れた。
本件契約の契約書には、保証金47万円の記載の下に「50%償却」と「修理費実費償却」の記載があるほか、「@「保証金は、本契約の終了により、Xが本物件を明渡し、かつ、Yの確認得た後、本契約に基づく未払債務、その他Xが負担すべきものがあれば、それらを差引いた上、 その残額をYの確認の日から30日以内に、YよりXに返還する。」A「契約終了の場合、X 己の負担において、別表・第1表に掲げる修繕及び、その他Xの故意、過失による損失、破損 若しくは滅失の箇所の補修、清掃、叉本物件に付加した造作、その他の設俺等を撤去し、全てを原状に復してYに明け渡すものとする。」との条項があり、別表・第1表には、項目別の修理種別・修理内容・修理基準の定めがあった。
Xは、平成14年5月、本契約をYと合意解除し賃借物件をYに明け渡したが、YがXに対し、 本契約には@及びAの特約があり、Aの特約に基づきXの負担となるリフォーム費用が52万7572 円となるので返還すべき敷金の残額はないと主張したため、Xは、敷金47万円のうち償却分ら 控除した23万5000円の返還を求めて提訴した。
■ 判決の要旨
これに対して裁判所は、
- 賃貸借契約においては、賃借人の使用、収益に伴う賃貸目的物の自然の損耗や破損の負担は、本来賃貸人の負担に属するものである。しかし、賃貸人の義務を免れ、あるいは、これを賃借人側の負担とすることは、私的自治の原則からもとより可能である。
特約のない場合の原状回復の限度としては、賃借人が付加した造作の収去、賃借人が通常の使用の限度を超える方法により賃借物の価値を減耗させたときの復旧費用については、賃借入が負担する必要があるが、賃借期間中の年月の経過による減価分、賃貸借契約で予定している通常の利用による価値の低下分は、賃貸借の本来の対価というべきものであって、その減価を賃借人に負担させることはできないものと考えられる。
- 特約Aが賃借人の負担義務を定めた特約にあたるか。
特約Aの引用する別表・第1表の内容としては、入居者の人居中の日常使用にあたって、修 理を必要とする場合の費用の負担者を賃借人と規定し、この基準を退去時にも引用してその 義務の内容としているものであると解される。したがって、入居中に賃借人が修理をする必 要のないような項目について、退去するにあたって突然賃借人に修理の義務が発生するとい う内容であるとまではいえない。
特約Aは、「その他の故意、過失による汚損、破損、若しく は滅失の箇所の補修」等を賃借人の原状回復義務のある範囲として定め、その前半の「別表・第1表に掲げる修繕」は例示的に掲げられているに過ぎないものと解され、敷金の償却費とし て50%の差引きがあることも併せ考えると、契約終了時の賃借人の一般的な原状回復義務を 規定したものであり、賃借人の負担義務を定めた特約と考えることはできない。
- 賃貸人としては、賃借人の退去に際し、通常の使用による減耗、汚損等も賃借人の負担で 改修したいのであれば、契約条項で明確に特約を定めて、賃借人の同意を得た上で契約すべ きものであるが、通常の使用による減耗、汚損等の原状回復費用も別途負担することについ ての明確な合意の存在も認められない。
- Xが負担すべき本件貸室の原状回復費用は、@キッチン上棚取手取付費用1000円、A排水 エルボー費3000円、B室内清掃費3万5000円と消費税の合計4万950円であることが認められる。
- 以上から、Yの請求は、YがXに対し支払うべき敷金23万5000円からXがYに支払うべき 原状回復費用4万950円を差引いた19万4059円の支払を求める限度で理由があるとした。
■ 個人的分析(今回、室内の状況及び経緯について不明なため、判断できない内容であるが・・・)
賃貸人の義務を免れ、あるいは、これを賃借人側の負担とすることは、私的自治の原則からもとより可能であるとしている。すなわち、特約がある場合は、有効という認識であると推定される。
しかしながら、今回の判決は、特約の記載方法等について 問題と推定され、判決中で「賃貸人としては、賃借人の退去に際し、通常の使用による減耗、汚損等も賃借人の負担で 改修したいのであれば、契約条項で明確に特約を定めて、賃借人の同意を得た上で契約すべ きものであるが、通常の使用による減耗、汚損等の原状回復費用も別途負担することについ ての明確な合意の存在も認められない。」 等の文面から判断すると特段の項目を作り、具体的な内容を規定した上で賃借人に認識させ、合意を得られたときは、有効であると解釈できないこともないと推定できる。
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