賃貸住宅研究  原状回復編17 目次 presented by  ライフサポート・ラボ

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経過年数を考慮し賃借人の負担すべき原状回復費用が示された事例

東京簡判 (平成14年7月9日)   〔敷金14万2000円 返還9万3294円〕

■ 事案の概要

 賃借人Xは、平成11年3月、賃貸人Yと賃料月額7万1000円で賃貸借契約を締結し、敷金14万2000円を差し入れた。

 Xは、平成13年3月、本件契約をYと合意解除し、本物件をYに明け渡したが、YはXに対し、本物件の壁ボードに空けられた穴、その他の修理費及び清掃業者による清掃費用等、原状回復費用として合計24万4100円を支出したとして、Xに返還すべき敷金14万2000円及び日割戻し賃料1万1774円の合計15万3774円を対等額で相殺した後の残金9万326円の支払を求めて提訴した。

 他方、Xは、敷金の精算に関しては、壁ボードの穴の修理費用のほかは、Xの負担部分はない、その修理費用は保険の適用を受けて支払うとして、敷金を含む15万3774円の支払を求めて提訴した。

■ 判決の要旨

これに対して裁判所は、

  1. 壁ボードの穴については、Xの過失によるものであることに争いがないので、Xは修理費用全額1万5000円を負担すべきである。
  2. 壁ボード穴に起因する周辺の壁クロスの損傷については、少なくとも最小単位の張替えは必要であり、これもXが負担すべきである。なお、その負担すべき範囲は約5uであり、本件壁クロスは入居の直前に張り替えられ、退去時には2年余り経過していたから残存価値は約60%である。そうするとXが負担すべき額はu単価1700円に5を乗じた金額の60%である5100円となる。
  3. 台所換気扇の焼け焦げ等は、Xの不相当な使用による劣化と認められる。
    なお、換気扇が設置後約12年経過していることから、その残存価値は新規交換価格の10%と評価される。よってXは、換気扇取替費用2万5000円の10%の2500円を負担すべきである。
  4. 証拠によれば、Xの明渡し時に、通常賃借人に期待される程度の清掃が行われていたとは認められず、Yが業者に清掃を依頼したことはやむを得ないものと認められる。そして、清掃業者は居室全体について一括して受注する実情に照らせば、Xは、その全額3万5000円について費用負担の義務がある。
  5. 以上から、Xが請求できるのは、返還されるべき敷金及び日割戻し賃料から6万480円(上記合計及び消費税額)を差引いた9万3294円とした。

■ 個人的分析(今回、室内の状況及び経緯について不明なため、判断できない内容であるが・・・)

今回の判決は、壁ボードにあけられた修復についてである。当然ながら、付随するクロスの張替えについても認めているが, 最小単位の張替えのみ認めていることに注意すべきである。

費用の認定であるが、その費用について経年変化を考慮し、その費用を按分していることである。ということは、修繕記録をつけておかないと費用請求のときにその算定額が困難になる可能性があるので注意すべきである。

また、 退去に際して、通常賃借人に期待される程度の清掃が求められている。


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