大阪高判 平成12年8月22日 (判例タイムズ1067−209) 一審・豊中簡判 平成10年12月1日 二審・大阪地判 平成11年10月22日
〔敷金37万5000円 差戻後和解・和解の内容は不明〕
■ 事案の概要 (原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成8年3月、賃貸人Yと月額賃料12万円余で賃貸借契約を締結し、敷金として37万5000円を差し入れた。
本件契約書には、「借主は、本契約が終了したときは、借主の費用をもって本物件を当初契約時の原状に復旧させ、賃主に明渡さなければならない」という条項(21条)があった。また、Xは、媒介業者から「本物件の解約明渡し時に、借主は契約書21条により、本物件を当初の契約時の状態に復旧させるため、クロス、建具、畳、フロア等の張替費用及び設備器具の修理代金を実費にて清算されることになります。」と記載された覚書を受領し、署名押印して媒介業者に交付した。
Xは、平成10年7月、Yに本物件を明け渡し、本件賃貸借契約は終了した。ところが、Yは本件契約に基づく原状回復費用として、通常損親分も含めて、敷金を上回る支出をしたとして、敷金の返還を拒んだため、Xは、通常損耗に対する補修費用は賃借人の負担とはならないとして、24万4600円の返還を求めて提訴した。
これに対し、Yは、Xには本契約書21条及び覚書に基づき要した、壁・天井クロス及び障子の表替え、洗面化粧台取替え並びに玄関鍵交換費用等の合計48万2265円を支払う義務があるとし、この修理費用等請求権をもって敷金返還請求権を相殺するとの意思表示を行い、さらに反訴請求としてXに対し、修理費用請求権残額等合計10万7265円の支払を求めた。
一審(豊中簡載)及び二審(大阪地裁)において裁判所はいずれも、本件契約書及び覚書の記載は、通常損耗による原状回復義務を賃借人に負わせるものと判断して、Xの請求を棄却して Xは、これを不服として上告した。
■ 判決の要旨
上告審において高等裁判所は、次のような判断を下した。
- 建物賃貸借において特約がない場合、賃借人は、@賃借人が付加した造作を取り除き、A通常の使用の限度を超える方法により賃貸物の価値を減耗させたとき(例えば、畳をナイフ で切った場合)の復旧費用を負担する義務がある。 しかし、@賃貸期間中の経年劣化、日焼け等による減価分や、A通常使用による賃貸物の減価(例えば、冷暖房機の減価、畳のすり切れ等)は、賃貸借本来の対価というべきであっ て、賃借人の負担とすることはできない。
- もし上記の原則を排除し通常損耗も賃借人の負担とするときには、契約条項に明確に定めて、賃借人の承諾を得て契約すべきであるが、本件賃貸借契約書21条の「契約時の原状に復旧させ」との文言は、契約終了時の賃借人の一般的な原状回復義務を規定したも、 読むことはできない。
- また、本件覚書は、本件契約書21条を引用しているから、これを超える定めをしたとはいえず、通常損耗を賃借人が負担すると定めたものとは解されない。
- 以上から、原判決の判断は契約の解釈を誤ったものであって、破棄を免れない、その賃貸人の支出した費用が通常損耗を超えるものに対するものであったかどうかについて審理 する必要があるとして、本件を原裁判所に差し戻した。
■ 個人的分析(今回、室内の状況及び経緯について不明なため、判断できない内容であるが・・・)
今回の判決は、高等裁判所の判決である。一審、二審とも原告が敗訴上告審での棄却でなく、差し戻し審であることに注目したい。
一審、二審とも「本件契約書及び覚書の記載は、通常損耗による原状回復義務を賃借人に負わせるものと判断して、Xの請求を棄却」通常損耗分は、契約内容、覚書にもかかわらず無効(極論な話、公序良俗に反するといったかどうかは知らないが・・)とし原状回復義務を限定解釈した判決だと推定されます???
それに反して文面からの解釈によれば、本件契約書には、「借主は、本契約が終了したときは、借主の費用をもって本物件を当初契約時の原状に復旧させ、賃主に明渡さなければならない」という条項は有効ではないかと疑問を投げかけているように思えます。さらに念を押したように覚書も存在し、確認していることから、自己責任もあると判断されたのかもしれません??
消費者保護の流れは重要ですが、自己責任、自己教育も大事で、「知らなかった」ということで済まされないように思います。
微妙な問題を内包している可能性がありますので今後の判断を待ちたいと思います。、