賃貸住宅研究 原状回復編12 目次 presented by  ライフサポート・ラボ

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更新時に追加された原状回復の特約は賃借人が自由な意思で承諾したとは認めら れないとされた事例

東京簡判 平成11年3月15日  〔敷金20万円 返還19万25円〕

■ 事案の概要 (原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)

賃借人Xは、平成3年8月、賃貸人Yと賃貸借契約を締結し、敷金20万円を差し入れた。その 後XとYは本件契約を平成5年、7年、9年と更新し、平成11年本件契約を合意解除した。Xは本 物件をYに明け渡した。

 Xが、明渡し後、敷金20万円の返還を求めたところ、Yは、引渡時の原状に回復すべき旨の 特約のある平成9年の更新契約により、Xは原状回復費用として、クロス・カーペット・クッシ ョンフロアエ事費用、畳表替え・襖費用及び室内清掃費用の合計36万5400円を負担すべきであ り、敷金からこれを控除すると、敷金から返還すべきものはないと主張した。

 これに対しXは、自然損耗についての原状回復義務はないとして、敷金のうち畳の表替え費 用6300円を除く19万5400円の返還を求めて提訴した。

■ 判決の要旨

これに対し裁判所は、

  1. 建物賃貸借契約の終了時に賃借人が負う原状回復義務は、通常の使用によって生じる貸室の損耗、汚損等を超えるものについて生じ、賃借人の故意、過失による建物の毀損や、通常でない使用による毀損や劣化等についてのみ、その回復を義務付けたものである。
  2. 特約により全費用を負担させることも、契約締結の際の事情等の諸般の事情を総合して、特約に疑問の余地のないときは、賃借人はその義務を負担することになるが、@本件特約は、平成7年までの契約にはなく、また、特約が加えられたことについても特に説明がなされていない、AXは、一部を除いて通常の用法に従って本件建物を使用しており、台所の天井のクロスの剥がれは雨漏りによるもので、クロスの一部汚損の痕跡は入居当初からあり、襖は当初から新品ではない、Bまた、更新の際、Xは更新料を支払っている、CY主張のように当初の賃貸借契約以降も本契約特約の効力が及ぶものとすれば、Xは予期しない負担を被る結果になる、Dしてみると本件特約は、Yの主張で見る限り、Xはその特約の趣旨を理解し、自由な意思で承諾したものとはみられない。
  3. 本件建物のクロス、カーペット、畳、襖、トイレ等の損耗、汚損等については、畳表1枚の一部焦げ跡と冷蔵庫の下のさび跡を除いて、Xの故意、過失や通常でない使用により、毀損、 劣化等を生じさせたとは認められない。
  4. 以上からXが負担すべき費用として、畳表1枚の費用6300円、冷蔵庫下のクッションフロア費用3675円の合計9975円のみを認めた。

■ 個人的分析(今回、室内の状況及び経緯について不明なため、判断できない内容であるが・・・)

今回の事例では、判例の要旨を見る限り、原状回復に関するトラブルと更新手続き上の問題点が存在する。特に更新手続き上の問題については、更新手続きにおいて、付加された自然損耗についての現状回復を要求する内容の特約の趣旨を理解せずまた、積極的に説明も行われなかった可能性も指摘される。

 その内容が義務を負担する内容であるため、特に慎重を要し、さらに、賃借人の責に帰する内容以外の請求もされている。  賃貸借においては、相互の信頼関係が重要でるにもかかわらず、このような現状である。更新手続きも単純な手続き事項として捉えるのは危険であり、権利・義務関係に抵触する可能性があるときは、慎重に対処・説明されるべきだと思います。

さらに賃借人においても、契約事項であるため,自己責任も問われ、慎重な対応を求められるものと考えます。


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