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通常の使用による汚損・損耗は特約にいう原状回復義務の対象にはならないとされた事例
東京地判 平成6年7月1日 〔敷金24万円 返還24万円(全額)〕
■ 事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yから昭和62年5月本件建物を賃料月額12万円で賃借し、その際Yに敷金24万円を差し入れた。
平成5年4月本件契約は合意解除され、同日XはYに本件建物を明け渡したが、Yが敷金を返還しないので、その返還を求めた。Yは本件建物の明け渡しを受けた後、畳の裏替え、襖の張替え、ジュータンの取替え及び壁・天井等の塗装工事を行い、その費用として24万9780円を支出したと主張した。
なお、本件契約には、「XはYに対し、契約終了と同時に本件建物を現(原)状に回復して(但し賃貸人の計算に基づく賠償金をもって回復に替えることができる)、明け渡さなければならない」という特約があった。これに対して原審(豊島簡判、判決年月日不明)は、Xの主張を認容し、Yが控訴した。
■ 判決(控訴審)の要旨
これに対して裁判所は
- 本件特約における「原状回復」という文言は、賃借人の故意、過失による建物の毀損や通常でない使用方法による劣化等についてのみその回復を義務付けたとするのが相当である。
- Xは、本件建物に居住して通常の用法に従って使用し、その増改築ないし損壊等を行うこともなく本件建物を明け渡したが、その際又は明渡し後相当期間内にYや管理人から修繕を要する点などの指摘を受けたことはなかった。
- Xは本件契約を合意更新するごとに新賃料の1か月分を更新料として支払ったが、Yは本件建物の内部を見て汚損箇所等の確認をしたり、Xとの間でその費用負担について話し合うことはなかった。
- 以上から、Xは本件建物を通常の使い方によって使用するとともに、善良な管理者の注意義務をもって物件を管理し、明け渡したと認められるから、右通常の用法に従った使用に必要に伴う汚損、損耗は本件特約にいう原状回復義務の対象にはならないとし、Xの請求を棄却した原判決は相当であるとして、Yの請求を棄却した。
■ 個人的分析(今回、室内の状況及び経緯について不明なため、判断できない内容である・・・)
- 原状回復の定義 ⇒ 賃借人の故意、過失による建物の毀損や通常でない使用方法による劣化等についてのみその回復を義務付けたとするのが相当
- 原状回復特約は、その定義を明確にする必要がある。内容の解釈によっては、特約さえも効力は有効にならない。
- 引渡し時における毀損・汚損部分の確認の必要性
- 費用負担の話し合いが必要
- 通常の使い方によって使用するとともに、善良な管理者の注意義務をもって物件を管理し、明け渡したと認められる時は、原状回復の義務の対象にならない。